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たとえば机の上に置いていたリップクリームが振動で落ちたとして、正常時であれば少しむっとしてしまうけれど、今日はもう笑うしかなかった。正常という言葉を使っているが、こんな状態が割と長く続いているので正常がわからない。壁際まで元気よく転がるリップクリームをただ眺める。拾いにいく気力はない。

 

もうだめだと友人に連絡をするとすぐに電話がかかってきた。仕事を抜け出してきたらしい。なにがあったのかは訊かず、迅速に今夜のご飯の約束を取り付けてくれた。メッセージより電話の方が、電話よりも会って話す方が効果的であることを彼は知っていた。豪快で無神経、私とは正反対の性格である彼は大学一年生のころから七年間ずっと私を救い続けている。