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フィルムを現像する。今回の現像は私の肉眼でみていたものにかなり近くてよかった。どの写真も完全に夢みたいで、何度もカメラロールで写真を眺める。私は写真を撮るのがとくべつ上手なわけではないけれど、36枚の中に自分の心を大きく動かされる写真が1枚でもあったとき、それだけで3000円の価値が十分にあると感じる。きっと今後どれだけフィルムや現像代が高騰しても、フィルムが世界に存在する限り私はずっとフィルムカメラを使い続けるのだと思う。あまりにも不合理で愚かな趣味。でも愛ってだいたいそんなものかも。

 

空港に降り立ったときの、風に運ばれてきた微かな牧場のかおりで地元に帰ってきたのだとわかる。今日の北海道は東京と同じくらいの暑さで、人々は顔をしかめている。

 

同じタイミングで親戚がちょうど来ていたので集まってご飯を食べる。昔からだけれど、彼らは私の容姿について納得がいかないので、延々と髪の長さについて言及したり的確にコンプレックスを突いてきたりする。その一言一言に私は少しずつ傷つきながら、この場に及んで相手の欲しがっている言葉や態度を探し続けている。異常だとおもう。すべてが。

 

半年ぶりに会った黒猫は私のことを忘れていなくて、服の香りで本人確認を済ませる。座りながらくつろいでいると後ろから突然左手を噛まれ、威嚇される。彼は私のことが気に食わないようだ。人間にも猫にも好かれずに、私は。