516

なにを伝えてもすべて私のエゴでしかない。私がなにかを言う権利も資格もない。お土産の賞味期限の日付が意味をなしてほしい。 晴れていてあたたかく、風もない。遠くまでつづく桜と、広い青空にまっすぐと引かれた飛行機雲のこと。

515

お客さんからチップをもらったりお酒をもらったりする。今まであまりない経験だったから新鮮でうれしい。お客さんのとなりでまかないを食べる。ずっと笑っていたような気がする。

514

髪がかなり長くなってきたけれど、友人の結婚式に合わせるために美容室に行くのを我慢する。前髪をすべて上げて固めたあとにバイト先からお休みの連絡がくる。友人を散歩に誘おうとしてやめる。しょうがすら売っていないスーパーマーケット。牛すじを煮込む。

513

今の上司は深掘りすることを「ディープダイブする」という。案件が変わるだけで毎回転職したような感覚になるが、それがいいことなのか悪いことなのかはわからない。 引きこもりだった著者はワーホリで海外に行ったという。文章の端々から経済力の豊かさ、そ…

512

新入社員の自己紹介をながめながら、私にはなにもないなとおもう。 今日は仕事をせず五冊ほど本を読んだけれど、それらの感想も、そもそも何の本を読んでいたのかさえはっきりと思い出せない。私はそんな本の読み方しかできなくなってしまったのだろうか。刹…

511

風が強すぎて散歩をあきらめる。風の弱い地域に住みたい。 南西の低い位置にオリオン座があるよ、と友人が教えてくれる。けれど東京の空は明るすぎて、オリオン座をみることすらままならない。同じ空のはずなのに。

510

昨日の深夜ずっと考えてもわからなかった問題は朝起きると嘘のようにすんなりと解けた。眠っている間もずっとその問題について考えていたような気がする。ちゃんと休んでほしい。 カルディの台湾フェアに行くためだけに身なりを整えて外に出る。台灣啤酒の緑…

509

桜、桜。春の呪いはしぬまで解けないが、このままでいい。 謎解きのイベントにいく。服に書いてある暗号を解かなければその服が買えないアパレルショップというコンセプト。私は昔からずっと謎解きが苦手で、今日もノーヒントで解けた問題はほとんどなかった…

508

「猫の脈拍がもっとゆっくりだったらいいのに」という言葉をみかけて、今日はいい日になりそうと思う。 二人分の賄いをつくったシェフは綺麗に盛り付けられた方を当たり前のように私にくれる。 フィナンシェ作りを失敗して食材に申し訳ないとこぼすと、フィ…

507

仕事をしていない。なんとなく外に出ようと思って身なりを整えた瞬間にすべての気力がなくなり布団にもどる。 だめな精神状態でフィナンシェをつくろうとして薄力粉を入れ忘れる。通常ではない精神状態のときにお菓子をつくってはいけない。増大する虚無。祈…

506

お酒をたくさんのむ。日記はおやすみ。

505

労働に生活を人質にとられている感覚がかなり強くなってきた。私は人と話したり、人の話をきいたり、なにかを読んだり書いたりするのがすきなのに。どうして。 好きという言葉の多義性のせいで好きな人に好きと気軽に伝えられないのがかなしい。私の好きな人…

504

今日はなにもできなかった。なにがあったわけでもないのに、すべてがむなしくて、ひどくかなしい。それでも、友人のあたたかい言葉ですこし心がほぐれる。私は言葉に生かされている。言葉のなかで生きたいよ。

503

多摩川沿いを歩く。不気味なほど暗く静かな道がずっと遠くまでつづいていてよかった。ここで私が攫われても誰にも気づかれないと思う。夜桜はライトアップされていないほうがいい。

502

お昼ごはんのお店を決めるとき、あまり個人的に気乗りしない友人の提案を肯定すると「それは気乗りしてないときのトーンだね」とばれて、すこしうれしかった。私は自分の意見をいわないから、いわなくても伝わる人間だけが周りに残っている気がする。ほとん…

501

京葉線に乗るときにだけ存在する感傷の種類があるような気がする。車窓の景色が綺麗だからかもしれない。 高校の頃の友人と会う。話している時間よりも麻雀をしている時間のほうが多くて、それがすこしだけさびしい。

500

担当していた業務が終わらなくて、上司に引き継いでもらう。この一ヶ月間、わたしはなにもできなかったな。涙もでない。 バイト終わりに部屋の掃除をするとはかどる。

499

ぜんぜんだめな仕事は明日で一区切り。 映画館で映画を観るという行為、映画の内容を楽しみたいというのは勿論あるけれど、ゆるやかな拘束のなかで健全な安静や興奮を得るという意味合いが強い。私はそれがすごくすき。私は家でひとりだと二時間の映画を最後…

498

簡単だからすぐ終わると思います、といわれて担当することになった仕事がまったく終わらない。簡単な仕事すら一人で履行できない程度の能力なのではやくやめたほうがいい。

497

今日も部屋から出られなかった。周りにいるすべての人間が敵にみえる日。 終業前、仲の良い会社の先輩からやさしいチャットがくる。言葉の端々に気遣いがあり、そのあたたかさにうれしくなる。

496

韓国人の上司は最近夢の中の言語が日本語になったという。自分の中の言語が増えるのは一体どんな感覚なのだろう。私も夢の中の言語が日本語以外になるまで海外に住んでみたいけれど、私の性格ではそれも難しいということもわかる。今日は部屋からでられなか…

495

たくさん歩く。買ったばかりのブーツが壊れる。 無責任とされる行動において主体性がないことは何の免罪符にもなり得ない。私はまた私のことがすこし嫌いになる。

494

生まれも育ちもまったく異なる人と話すと自分の中の世界がすこしだけ広がる感じがする。小説やエッセイを読んでいるときの感覚もこれに近いかもしれない。 お客さんが来ない。お店の前の通りに人が一人もいない。営業中なのにシェフがビールをおもむろに開け…

493

同期以外の会社の人とはじめて会う。みんなやさしい人で、会う前に想像していたさまざまななことのすべてが起こらなかった。きみはNISAとかしなさそうだね、といわれて、よくわかってるじゃんとおもう。 お酒を飲む。歩いて帰る。

492

躁のときにした出席の回答で鬱のときの私が苦しむ。逃げ場のないひとりがこわい。私が唯一話せるひとは私以外にも話せるひとがたくさんいる。 今はとにかく遠くへ行きたい。ここにいたくないという表現の方が正確かもしれない。仕事や生活についていっさい考…

491

すごくさむくて、身体の芯から冷えきっている。神宮球場は雨。 部屋に他者の存在がなければそこが自分の世界になり、自己の異常性に気付くことができない。まるで自分が正しいかのような錯覚。

490

草むらでねむる野良猫は細菌に感染していて、目や鼻がかなりひどく汚れている。そのとき一切の躊躇なくウェットティッシュで顔を綺麗にしてあげる友人をみて、そのまっすぐなやさしさに泣きそうになる。拭いたあと、美人さんだねえといいながら友人が猫を撫…

489

日本語が未熟な人と日本語でやり取りをするとき、相手の発音や語彙もしっかりしているのに、うまく意思の疎通ができないことが多い。私たちは普段意識の外側にある細かい助詞のニュアンスで正しいコミュニケーションを実現していることがわかる。逆に、きっ…

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おだやかな友人と話しているとき、自分もおだやかな話し方になっていることに気づく。 一通りの家事をして、やわらかい日差しのあたる窓際に置いたビーズクッションの上でねむる。

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盛り付けの工程が複雑で覚えられない。調理補助しっかりできなくてすいません、と謝ると「いてくれるだけで俺もお客さんも安心するから、そんなに気負わなくていいんだよ」と言われ、存在をゆるされたような気持ちになる。本職と違って心理的安全性がかなり…